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『マリ・ラウれぽうと』

#02『言葉につつまれる快楽 -マリー・ルウの秘密-』

横浜市 平野真貴子 (25)



「おやすみなさい、ぼくの、マリー・ルウ」は神話と科学が緻密に組み合わされた物語だ。主役は遺跡の落盤事故で大けがを負い、記憶を失った「元」新進気鋭の考古学者・トキオ。へたれ気味のプレイボーイである。
 相手役の女性は六人もいる。全員記憶を失う前から関わりのある女性だがトキオは全員の名前を忘れている。普通恨まれるぞ。でも六人の女性は実は、彼が誰よりも思い出すべきただ一人への道しるべ。六人で一人の女性でもあり皆彼を愛している。ただのプレイボーイではないのだ。愛されるプレイボーイ。男のロマンだ。
 トキオの専門だった古代エジプトの神話で女神イシスは、殺されてナイルにばらまかれた夫オシリスの体を集め、彼を復活させる。六人の女性達はオシリスの体を集めるイシスであると同時にナイルに棲みオシリスの体の一部をのみこむ魚”オクシリンコス”であり、飲み込まれてしまった体=トキオの記憶でもある。六人は複数の要素を体現して大事な人を忘れてしまったトキオを救ってあげるのだった。

 さて、忘れてしまった男は主役であるにも関わらず実に受身だ。バラされてしまったオシリスはどんなに重要人物でも能動的ではありえない。そんな彼の姿はこの物語のもうひとつの柱である人類の進化に重なっている。物語が進むにつれて彼が思い出す、一人一人の女性たちはそのまま生物の進化の過程に重ねられ、六人の女性に翻弄されながら自分を取り戻す彼は、自然に翻弄されつつも進化を続け、自然淘汰の波をしたたかに潜り抜けてきた我々人類でもある。
 人間の胎児は子宮の中で単細胞生物から魚類、両生類、鳥類、哺乳類と人類の進化の歴史をそのままたどり、小型の人類になってでてくるらしい。羊水はそのまま生物を育んだ海なのだ。
 彼が落盤事故に遭遇したマリー・ルウ遺跡には金の鱗をもつ魚の美しい壁画があったが事故のときに埋まってしまった。そこには人類の進化に関するすばらしい発見が書かれていたらしいがトキオの記憶とともに失われてしまった。全て秘密。でもそれがなんだというのだ?トキオが何度忘れてしまっても必ず大事な人を思い出すように、私たちがどんな過程を経てここにいるかという不思議も、私たちの中でずっと待っていてくれるのだから。
 この物語を一言でいえば「面白い」。FunnyではなくInterestingで。精細な言葉で紡がれる、彼と私たちの物語に包まれるのはすごくここちよかった。

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(C) Kazuyuki Matsumoto