『マリ・ラウれぽうと』
#04『カオスの中から聞こえてくる力ある声』
涙石玉(観客・30歳・東京都在住)
この世界で、本当に信じられる言葉は何だろう。
表現者が作品について真摯に語る言葉も、他の誰かによって派手な色がつけられ、別のものへと変化して大量に巷に撒かれる。オフィスやお昼に入るカフェ、電話の向こうには、表情のない記号のような言葉ばかりが凄まじい勢いで飛び交っている。
人の思いは、どこにあるのだろう。
歴史の裏には人の思いがあるのに、学校では、歴史の教科書の太文字で書かれた部分のみが覚えておくべきことのように教えられる。社会に出れば、距離感を保つことが「大人」とされ、人の思いを尊重することは「ウェット」と煙たがられる。
自分の心は、どうしたらつかめるのだろう。
慌しい昼の時間にはもはや向き合えないこの存在。誰もが寝静まった夜に独り向き合うしかないこの存在。それでいて、眠ることもできず向き合っていると、疲労で色がくすみ、さらに見えにくくなる厄介なこの存在。
この世で真実と言われていることは、本当は真実ではないかもしれない。真実は、人の思い。人の心。すなわち、目に見えないもの。恐れるな。恥じるな。探し求めろ。対峙しろ。そして、生きろ。『おやすみなさい、ぼくの、マリー・ルウ』は、カオスの中からそんな力ある声を観る者に届けてくれる。